付加価値を捨て、絶対的価値を追求する

ある意味自明であり、自業自得なところはありますが

製造業に優秀なソフトウェアエンジニアが集まらない

これは以下のような時代の経営施策の一貫だと考えています。

かつて世界を席巻した日本のエレクトロニクス産業は、1980年代にアナログからデジタルへの転換点を迎えていました。CD程度の音声のデジタル化ならともかく、DVDなどの映像のデジタル化が始まった以降は企業に開発の大きな負担がありました。デバイスをアナログデバイスからデジタルデバイスへ変更し、回路設計も全部一からやり直すことになりました。

ここで重要だったのは「デジタルデバイスの使い方」「回路設計」でした。必然的にハードウェアの重要性が大きく、ハード屋さんが大活躍した結果、無事デジタル時代への移行を完遂し、日本のエレクトロニクス産業は安堵しました。この時代のソフトウェアはハードウェアの「オマケ」でしかありませんでした。(このデジタル化の移行時代にハードウェアではなく、ソフトウェアの重要性に気づいていた企業がAppleですね)

ところがデジタル化が一段落すると、今度はソフトウェアの開発工数が大きくなっていくことに気づきました。2000年前後からソフトウェアの開発が負担となりましたが、それでも経営陣はソフトウェアよりもハードウェアを重視(この時の経営側はほとんどハード出身ですね)2004年に製造業派遣が解禁になるなどソフトウェアをアウトソースする環境が整ったこともあり、肥大化するソフトウェア開発をアウトソースする戦略を採りました。開発がさらに肥大化するとオフショアへ投げることになり、あくまで工数としての「ソフトウェア」という捉え方をしていました。当時の優秀なエンジニアはこの辺りで転職しはじめていたと思いますし、この頃はソフトウェアエンジニアは有名IT企業に就職していくことになります。

そして現在、AppleGoogleと言った企業に圧倒的に押されています。彼らの得意なことはソフトウェア開発であり、ハードウェア開発ではありません。Appleはソフトウェアだけでなく「体験性」を作り込むことのできる稀有な企業です。時代は完全にソフトウェア開発に移行し「優秀なソフトウェアエンジニア」を抱える企業が(確率論的にですが)成長できることになります。

なぜ”優秀な”ソフトウェアエンジニアかと言うと、10倍格差などと言われる開発の生産性が大きいですし、ソフトウェア開発は少人数で開発したほうが品質も高いことは容易に想像できます。つまり

少数精鋭のソフトウェアエンジニアのチームの数

というのが勝負になってきます。じゃあ「優秀なオフショアのエンジニアを雇えばいいんじゃないか?安いし」ということを考えます。正論です。ただし普通の製品を作るだけならという注釈付きですが。

先のAppleですが体験性を作り込むことで、その企業価値・製品価値を大きく寄与していることは間違いありません。この体験性を創るにはオフショアでは難しいでしょう。体験性はユーザのフィードバックが必須です。まさにアジャイル開発のように、意図した体験性をユーザが感じているのか否か、何度もターゲットとなるユーザに確認しながらトライする必要があります。これは自社でそういった開発のできるエンジニアを抱えているからこそできることです。必ずしもAppleと同じ事をやる必要はありませんが、これからの製品の目指すべき所は

・付加価値よりも絶対的な体験性 
・体験性を第一とし体験性を損なうような機能は捨てる 
・スペックではなく生活を変える可能性を感じられるか否か

「付加価値」をWikipediaでみると

一般的に、何らかの「もの」を使って新しい「もの」を生み出すと、元々の「もの」より高価値な「もの」となる

つまり元々の「もの」に対する価値≒多機能という沼にハマることになります。「付加価値」という概念がすでに時代的に合わないものとなっていることを認識すべきでしょう。

「付加価値」という考え方を捨て「絶対的価値」を追求する

今までの考え方を変え、まさにイノベーションのジレンマの真っ只中に居ることを認識して、大きく舵をきれるかどうか経営手腕が問われています。