LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(番外編:提供されているコードについて)
LPCXpressoを触っていて、気になったことがあるので書いておきます。LPC812にはARMのCortex-M0+のコアとNXPの周辺モジュールの2つが合わさったマイコンです。ブロック図はユーザーズマニュアルp7にあります。
サンプルプログラムを見てて思ったのは「あれっ?これ品質的に全然ダメなんじゃね・・?」という箇所がパラパラと見かけられたことです。例えば前エントリのMRTは0チャンネルしか実装が無く、引数にチャンネル番号増やすだけでいいはずなのになんでだろう?と思って見ていったら、MRTのコードの先頭に以下の記述を発見!
/**************************************************************************** * $Id:: lpc8xx_mrt.c 5543 2012-10-31 02:19:19Z usb00423 $ * Project: NXP LPC8xx multi-rate timer(MRT) example * * Description: * This file contains MRT timer code example which include timer * initialization, timer interrupt handler, and related APIs for * timer setup. * ****************************************************************************
"exmaple"・・・えっ!?仮にも公式で"lpc_driver_lib"っていうプロジェクトファイルなのに?ちょっとマテ、他のコードもか?と思って調べてみました。exampleという記述があるドライバは以下の通り(exmapleとはいえ、そこそこ品質のいいのもあるかも。調べてないけど)
- MRT(lpc8xx_mrt.c)
- Clock Configuration(lpc8xx_clkconfig.c)
- CMP(lpc8xx_comp.c)
- CRC(lpc8xx_crc.c)
- GPIO(lpc8xx_gpio.c)
- NMI(lpc8xx_nmi.c)
- PMU(lpc8xx_pmu.c)
- WDT(lpc8xx_wdt.c)
- WKT(lpc8xx_wkt.c)
正式にサポートされているコードは
- I2C(lpc8xx_i2c.c)
- UART(lpc8xx_uart.c)
- SPI(lpc8xx_spi.c)
ARMコアのCortex-M0+側のコードについては正式にサポートされているようです。というわけでLPC側のコードのほとんどはサンプルドライバということになります。まぁ確かにドライバはそれぞれの事情に合わせて作りこむ必要がある部分ではありますが、もう少し頑張って欲しい感じがします...(;´Д`) まぁレジスタマクロがあるだけマシなのかも...
これは、誰かがライブラリを作成して公開するなどしていかないと、なかなか流行らないかもしれませんね...ただでさえ、組み込みエンジニアは外に出てこないのでノウハウの共有ができないです(´ε`;)ウーン…
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その6:タイマーを使う)
今回はBlinkyのサンプルに戻って、残っているタイマーの動作を確認したいと思います。
LPC800シリーズのタイマー
LPC800シリーズにはタイマーが2種類あります。
- Cortex-M0+内にあるSystick timer, 24bit 1チャンネル
- LPCシリーズとしてのMRT(Multi-rate Timer), 31bit 4チャンネル
BlinkyではMRTを使ってLEDを点滅させています。サンプルの書き方としては「?」なところもあるのですが、とりあえず見ていきます。
全体の動作
LEDを点滅させている部分は以下の箇所です。
extern uint32_t mrt_counter; : init_mrt(0x8000); while (1) /* Loop forever */ { /* I/O configuration and LED setting pending. */ if ( (mrt_counter > 0) && (mrt_counter <= 200) ) { GPIOSetBitValue( 0, 7, 0 ); } if ( (mrt_counter > 200) && (mrt_counter <= 400) ) { GPIOSetBitValue( 0, 7, 1 ); } if ( (mrt_counter > 400) && (mrt_counter <= 600) ) { GPIOSetBitValue( 0, 16, 0 ); } if ( (mrt_counter > 600) && (mrt_counter <= 800) ) { GPIOSetBitValue( 0, 16, 1 ); } if ( (mrt_counter > 800) && (mrt_counter <= 1000) ) { GPIOSetBitValue( 0, 17, 0 ); } if ( (mrt_counter > 1000) && (mrt_counter <= 1200) ) { GPIOSetBitValue( 0, 17, 1 ); } else if ( mrt_counter > 1200 ) { mrt_counter = 0; } }
init_mrt関数でMRTを初期化して、mrt_counterの値をチェックして点滅間隔を調整していることがわかります。この時点でmrt_counterが当たり前のようにextern変数ってどうなのよ?って感じはしますが気にしないことにします(^^;
MRT(Multi-rate Timer)の初期化
init_mrt関数を見ていきましょう。
(lpc8xx_mrt.c) void init_mrt(uint32_t TimerInterval) { /* Enable clock to MRT and reset the MRT peripheral */ LPC_SYSCON->SYSAHBCLKCTRL |= (0x1<<10); LPC_SYSCON->PRESETCTRL &= ~(0x1<<7); LPC_SYSCON->PRESETCTRL |= (0x1<<7); mrt_counter = 0; LPC_MRT->Channel[0].INTVAL = TimerInterval; LPC_MRT->Channel[0].INTVAL |= 0x1UL<<31; LPC_MRT->Channel[0].CTRL = MRT_REPEATED_MODE|MRT_INT_ENA; /* Enable the MRT Interrupt */ NVIC_EnableIRQ(MRT_IRQn); return; }
まず最初にSYSAHBCLKCTRLレジスタの10bit目に1を書込み、MRTブロックへのクロック供給を行っています。
LPC_SYSCON->SYSAHBCLKCTRL |= (0x1<<10);
次の2行でPeripheral reset control registerでMRTブロックのリセットを行っています。ユーザーズマニュアルp28にあります。
0を書き込んでから、1を書き込んでブロックにリセットを掛けています。
LPC_SYSCON->PRESETCTRL &= ~(0x1<<7); LPC_SYSCON->PRESETCTRL |= (0x1<<7);
グローバル変数mrt_counterを初期化して、タイマー値を設定しています。ここでMRTは4チャンネルあるはずなのですが、なぜか0チャンネル固定になっています。MRTはユーザーズマニュアルp162から
なお、マニュアルにはちゃんと4チャンネル分の記述があります。Time interval registerにタイマーの設定値を書込み、31bit目にタイマーを即時開始するように、LOADビットを書き込んでいます。ユーザーズマニュアルp163
mrt_counter = 0; LPC_MRT->Channel[0].INTVAL = TimerInterval; LPC_MRT->Channel[0].INTVAL |= 0x1UL<<31;
次にControl registerにリピートモードに設定し、割り込みを有効にしています。
LPC_MRT->Channel[0].CTRL = MRT_REPEATED_MODE|MRT_INT_ENA;
最後にMRTの割り込みを有効にして、タイマー割り込みが入るようにしています。
/* Enable the MRT Interrupt */ NVIC_EnableIRQ(MRT_IRQn);
このNVIC_EnableIRQ関数は何をやっているのでしょう。IRT_IRQnを調べてみると
typedef enum IRQn { /****** Cortex-M0 Processor Exceptions Numbers ***************************************************/ Reset_IRQn = -15, /*!< 1 Reset Vector, invoked on Power up and warm reset*/ NonMaskableInt_IRQn = -14, /*!< 2 Non Maskable Interrupt */ HardFault_IRQn = -13, /*!< 3 Cortex-M0 Hard Fault Interrupt */ SVCall_IRQn = -5, /*!< 11 Cortex-M0 SV Call Interrupt */ PendSV_IRQn = -2, /*!< 14 Cortex-M0 Pend SV Interrupt */ SysTick_IRQn = -1, /*!< 15 Cortex-M0 System Tick Interrupt */ /****** LPC8xx Specific Interrupt Numbers ********************************************************/ SPI0_IRQn = 0, /*!< SPI0 */ SPI1_IRQn = 1, /*!< SPI1 */ Reserved0_IRQn = 2, /*!< Reserved Interrupt */ UART0_IRQn = 3, /*!< USART0 */ UART1_IRQn = 4, /*!< USART1 */ UART2_IRQn = 5, /*!< USART2 */ Reserved1_IRQn = 6, /*!< Reserved Interrupt */ Reserved2_IRQn = 7, /*!< Reserved Interrupt */ I2C_IRQn = 8, /*!< I2C */ SCT_IRQn = 9, /*!< SCT */ MRT_IRQn = 10, /*!< MRT */
割り込み番号として、MRTは10番に割り当てられていることがわかります。さてNVIC_EnableIRQの中は、
__STATIC_INLINE void NVIC_EnableIRQ(IRQn_Type IRQn) { NVIC->ISER[0] = (1 << ((uint32_t)(IRQn) & 0x1F)); }
引数として割り込み番号をNVICのISER[0]に設定をしています。NVICレジスタはユーザーズマニュアルp14、ISERはp15にあります。
つまり、NVICのInterrupt Set Enable registerに、MRTの割り込み許可を行っています。NVICとは「Nested Vector Interrupt Controller」で要は「割り込みコントローラ」です。ここではそれ以上はいいでしょう。
これで、タイマーを設定し、タイマー値がカウントダウンして0になった時に、MRTの割り込みが動作することになります。
割り込みハンドラ
次に割り込みが起こった時の動作を確認します。割り込みハンドラの実装は
(lpc8xx_mrt.c) void MRT_IRQHandler(void) { if ( LPC_MRT->Channel[0].STAT & MRT_STAT_IRQ_FLAG ) { LPC_MRT->Channel[0].STAT = MRT_STAT_IRQ_FLAG; /* clear interrupt flag */ mrt_counter++; } return; }
タイマー値がカウントダウンされ0になると、この割り込みハンドラが呼ばれます。全体としてはグローバル変数のmrt_counterをインクリメントしているだけです。さて詳細に見て行きましょう。
まずは、MRTの0チャンネルのStatus registerに割り込みフラグが立っているかチェックしています。
if ( LPC_MRT->Channel[0].STAT & MRT_STAT_IRQ_FLAG )
割り込みフラグが立っていたら、割り込みフラグをクリアします。INTFLAGに1を書き込むことでクリアになります。クリア後にカウンタを+1して終わりです。
LPC_MRT->Channel[0].STAT = MRT_STAT_IRQ_FLAG; /* clear interrupt flag */ mrt_counter++;
LEDの点滅動作
MRTの動作がわかりました。init_mrt関数で設定した値がカウンタとして働き、カウントダウンされ、0になるとmrt_counterが+1されていることになります。したがって、サンプルプログラムの動作は0x8000(32768) × 200のタイミングで点滅をするようになっていて、mrt_counterが1200を超えると0にリセットされ、繰り返すことになります。
注意:mrt_counterがグローバルで初期化がinit_mrt内で行われるのに、メインプログラムで0にクリアするとか、サンプルとして良くない例です。こういうプログラムは書かないようにしましょう(^^;
タイミングを変えてみる
それではタイマーのタイミングを変更してみましょう。こんな感じです。
// init_mrt(0x8000); init_mrt(SystemCoreClock / 100);
mrt_counterが200で点滅することになるので、これだと2秒おきに点滅することになります。??よくわかりませんね。解説します。タイマーは結局、クロック周波数に同期して動いています。さてSystemCoreClock = 12MHzでした。これは1秒間の振動数です。つまり120000を設定すると、1秒のタイマーになります。ということは100で割っているので10msのタイマーを設定していることになります。点滅のカウントは200ですので、10ms × 200 = 2s ということになります。実際のタイマーはこのように10msや1msといった単位で作成しますので、このような設定の仕方になります。
次回は、MRTではなくSystickを使ったタイマーと、今回説明できなかったハンドラの補足をしようと思います。
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その5:PLLを使用してクロックアップ!)
LPC812は最大動作クロックは30MHzなので、今回はデフォルトの12MHzを30MHzで動作するように設定を変更してみます。
動作クロックの変更を行うには
前回のエントリのクロック・ジェネレータを参照しながら考えてみます。
目的は「system clock」を30MHzにすることです。さて入力クロックの種類ですが、
- IRC oscillator
- XTALIN, XTALOUT
- CLKIN
- watchdog oscillator
が選択できるようですがクロックジェネレータには制約があります。
watchdog oscillatorは入力周波数が低すぎて使えません。CLKINは回路図上でクロックがそもそも接続されていません。XTALIN, XTALOUTですが回路図で見ると...
実装はされているのですが、ジャンパーで実は接続されていません。したがって使えるのはIRC osciilator(内部発振器)だけとなります。さて12MHzの内部発振器で30MHzを作るにはどうすればよいでしょう。答えはPLL回路で逓倍・分周することで作ることができます。このあたりもユーザーズマニュアルp50に記述があります。
今回はPLLを使ってSystem clock=30MHzを作りたいので、Main clock = 60MHzを作れということです。その場合
- M divider value : 5
- P divider value : 2
というのがあります。これがPLL回路の設定値となります。この表の少し上に色々と記述があり、PLL回路の制約条件が書いてあります。
整理するとこういうことになります。
今、PLL入力 = 12MHz、Main clock = 60MHz、System clock = 30MHzなので、SYSAHBCLKDIV = 2となります。MとPについては
この式から、
- M = 60MHz / 12MHz = 5
- FCCO = 2 × P × 60MHz (156MHz < FCCO < 320MHz)なので、 P = 2
具体的に設定してみる
前述の設定を具体的に設定してみます。system_LPC8xx.cの設定値を変更します。変更するレジスタは
- SYSPLLCTRL : PLLのMとPを設定する
- MAINCLKSEL : メインクロック選択をPLL outに設定する
- SYSAHBCLKDIV : システムクロックをメインクロックから1/2して生成する
#define CLOCK_SETUP 1 #define SYSOSCCTRL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 #define WDTOSCCTRL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 //#define SYSPLLCTRL_Val 0x00000041 // Reset: 0x000 #define SYSPLLCTRL_Val 0x00000024 // Reset: 0x000 M=5, P=2 #define SYSPLLCLKSEL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 //#define MAINCLKSEL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 #define MAINCLKSEL_Val 0x00000003 // Reset: 0x000 PLL select //#define SYSAHBCLKDIV_Val 0x00000001 // Reset: 0x001 #define SYSAHBCLKDIV_Val 0x00000002 // Reset: 0x001 1/2
ただし注意があります。デフォルトではSYSAHBCLKDIV = 1なのでクロック生成を前段から行っていくと、メインクロック60MHzを出力した瞬間、システムクロックも60MHzとなってしまいます。そのため、まず最初にSYSAHBCLKDIV = 2として、あらかじめシステムクロックをメインクロックの1/2に設定しておくほうが安全です。コードは以下のように修正します。
LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV = SYSAHBCLKDIV_Val; <-- 安全のため、先に1/2しておく LPC_SYSCON->SYSPLLCLKSEL = SYSPLLCLKSEL_Val; /* Select PLL Input */ LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN = 0x01; /* Update Clock Source */ while (!(LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN & 0x01)); /* Wait Until Updated */ #if ((MAINCLKSEL_Val & 0x03) == 3) /* Main Clock is PLL Out */ LPC_SYSCON->SYSPLLCTRL = SYSPLLCTRL_Val; LPC_SYSCON->PDRUNCFG &= ~(0x1 << 7); /* Power-up SYSPLL */ while (!(LPC_SYSCON->SYSPLLSTAT & 0x01)); /* Wait Until PLL Locked */ #endif #if (((MAINCLKSEL_Val & 0x03) == 2) ) LPC_SYSCON->WDTOSCCTRL = WDTOSCCTRL_Val; LPC_SYSCON->PDRUNCFG &= ~(0x1 << 6); /* Power-up WDT Clock */ for (i = 0; i < 200; i++) __NOP(); #endif LPC_SYSCON->MAINCLKSEL = MAINCLKSEL_Val; /* Select PLL Clock Output */ LPC_SYSCON->MAINCLKUEN = 0x01; /* Update MCLK Clock Source */ while (!(LPC_SYSCON->MAINCLKUEN & 0x01)); /* Wait Until Updated */ // LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV = SYSAHBCLKDIV_Val; <--- コメントアウト
動作確認をしてみる
動作確認はprintfを使ってSystemCoreClockを表示してみます。
設定通り30MHzになっていることが確認できました。ここでレジスタをIDE上で確認できる方法を紹介します。ブレークした状態で、左のプロジェクトウィンドウから「Peripherals+」のタブを選択し、Peripheralから今の場合「SYSCON」をチェックします。この状態で右下のコンソールウィンドウの「Memory」タブを選択すると各レジスタの現在の値が表示されます。
各レジスタが設定通りになっていることが確認できます。このレジスタの確認はGPIOその他でも使えますし、その場で「Value」の値を変更することもできるのでデバッグにも使えます。
前回と今回はスタートアップルーチンや、動作クロックの設定について調べてみました。普段ArduinoのようなPICマイコンではこのようなことを気にする必要はありません。しかしプロトタイプ以上のことをやったり、製品に組み込むマイコンの選択をコストなどを考えると、組込みマイコンを使用する必要が出てきます。ここでの方法や基本的な考え方はどのマイコンでもほとんど同じなので、基本さえ押さえておけば応用は可能でしょう。
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その4:スタートアップルーチン)
スタートアップルーチンを見てみる
Blinkyのサンプルアプリはmai.cのmain関数から始まっているのですが、ここでここまでに至る起動時のスタートアップルーチンを見てみようと思います。スタートアップルーチンでは、起動時の重要な初期化やデフォルト設定を行っています
main関数はどこから呼ばれるか?
main.cのmain関数はどこからコールされているか調べてみますと、cr_startup_lpc8xx.cからコールされていることがわかります。 正確には"_REDLIB_"が有効なので、Redlib内の__mainの後にmainがコールされています。またmain関数を実行し、万が一抜けてきた場合にはwhileの永久ループに入るようになっていることがわかります。
(cr_startup_lpc8xx.c) #if defined (__REDLIB__) // Call the Redlib library, which in turn calls main() __main() ; #else main(); #endif // // main() shouldn't return, but if it does, we'll just enter an infinite loop // while (1) { ; } }
このmain関数をコールしている関数はResetISRという関数です。これはリセットハンドラで、リセットされるとここへジャンプしてきます。つまりこのRestISRがプログラムの開始となります。
SystemInit関数
ResetISRではSystemInit関数をコールしてシステムの初期化を行い、その後main関数を実行するようになっています。ResetISRの最初ではベクターテーブルをFlashからSRAMへ移動したり(Cortex-M0+の機能)、data領域の初期化などを行っています。
SystemInitの中を見ていきましょう。ifdefで無効になっている部分を取り除くと以下のようになります。
(system_LPC8xx.c) void SystemInit (void) { volatile uint32_t i; /* System clock to the IOCON & the SWM need to be enabled or most of the I/O related peripherals won't work. */ LPC_SYSCON->SYSAHBCLKCTRL |= ( (0x1 << 7) | (0x1 << 18) ); LPC_SYSCON->SYSPLLCLKSEL = SYSPLLCLKSEL_Val; /* Select PLL Input */ LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN = 0x01; /* Update Clock Source */ while (!(LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN & 0x01)); /* Wait Until Updated */ LPC_SYSCON->MAINCLKSEL = MAINCLKSEL_Val; /* Select PLL Clock Output */ LPC_SYSCON->MAINCLKUEN = 0x01; /* Update MCLK Clock Source */ while (!(LPC_SYSCON->MAINCLKUEN & 0x01)); /* Wait Until Updated */ LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV = SYSAHBCLKDIV_Val; }
各行を解説していきます。これはユーザーズマニュアルと突き合わせて確認できます。
SWM(Switch Matrix)、IOCON(I/O configuration)のブロックにクロックを供給して有効にする。 LPC_SYSCON->SYSAHBCLKCTRL |= ( (0x1 << 7) | (0x1 << 18) ); #define SYSPLLCLKSEL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 : System PLLのクロックソース選択。上記の値からIRCを選択 LPC_SYSCON->SYSPLLCLKSEL = SYSPLLCLKSEL_Val; <----- 1 System PLLのアップデート LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN = 0x01; while (!(LPC_SYSCON->SYSPLLCLKUEN & 0x01)); #define SYSPLLCLKSEL_Val 0x00000000 // Reset: 0x000 : メインクロックソース選択。上記の値からIRC Oscillator(内部発振器を使用) LPC_SYSCON->MAINCLKSEL = MAINCLKSEL_Val; <----- 2 メインクロックのアップデート LPC_SYSCON->MAINCLKUEN = 0x01; while (!(LPC_SYSCON->MAINCLKUEN & 0x01)); #define SYSAHBCLKDIV_Val 0x00000001 // Reset: 0x001 : システムクロックの分周比の設定。上記の値から1 LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV = SYSAHBCLKDIV_Val; <----- 3
動作クロックの設定
さて何をやってるんでしょうね。なんとなくクロック周りの初期設定を行っていることはわかります。上記の設定は下記の図の設定を行っています。下記はクロックジェネレータのブロック図ですが、前述の1〜3は①〜③の設定を行っています。
この図との対応は、SYPLLCLKSELではIRC oscillatorを選択、次段のMAINCLKSELでは前段のPLL出力ではなく、IRC oscillatorを選択、それをSYSAHBCLKDIVで分周してシステムクロックとしています。つまり、
- main clock : IRC oscillator
- system clock : main clock / 1
となります。システムクロック=メインクロック=内部発振器のクロック数です。では内部発振器のクロックはいくつになっているでしょうか。ユーザーズマニュアルp5に書いてあります。
したがって、システムクロックは12MHzで動作することになります。LPC812は30MHzで動作可能なのですが、初期値は抑えていますね。では、実際に12MHzで動作していることを確認してみます。main関数の最初のSystemCoreClockUpdate関数でそれを確認できます。SystemCoreClockUpdate関数の最後にSystemCoreClockへの代入箇所があるので、その後にブレークポイントを張ってブレークしたところで確認します。※下記スクリーンショットはスクリーンショットの作成の都合上、代入前になっているので注意。実際に確認するのは戻り出口の場所で
確かに12MHzになっています。実際のコード上での設定はどこでやっているかというとSystemCoreClockUpdate関数の下記になります。
switch (LPC_SYSCON->MAINCLKSEL & 0x03) { case 0: /* Internal RC oscillator */ SystemCoreClock = __IRC_OSC_CLK; <-------- ここで一旦決定される break; case 1: /* Input Clock to System PLL */ switch (LPC_SYSCON->SYSPLLCLKSEL & 0x03) { case 0: /* Internal RC oscillator */ SystemCoreClock = __IRC_OSC_CLK; break; case 1: /* System oscillator */ SystemCoreClock = __SYS_OSC_CLK; break; case 2: /* Reserved */ SystemCoreClock = 0; break; case 3: /* CLKIN pin */ SystemCoreClock = __CLKIN_CLK; break; } break; case 2: /* WDT Oscillator */ : : 下記でLPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV = 1 SystemCoreClock /= LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIV;
SystemInitでLPC_SYSCON->MAINCLKSEL = 0と設定しているので、一旦システムクロックは_IRC_OSC_CLKになります。その後LPC_SYSCON->SYSAHBCLKDIVの値で分周しますが、設定では1なのでシステムクロックはそのまま_IRC_OSC_CLKとなります。
/*---------------------------------------------------------------------------- Define clocks *----------------------------------------------------------------------------*/ #define __XTAL (12000000UL) /* Oscillator frequency */ #define __SYS_OSC_CLK ( __XTAL) /* Main oscillator frequency */ #define __IRC_OSC_CLK (12000000UL) /* Internal RC oscillator frequency */ #define __CLKIN_CLK (12000000UL) /* CLKIN pin frequency */
__IRC_OSC_CLKは定義から12MHzとなっているので、システムクロックが12MHzということになります。以上がスタートアップルーチンです。スタータップで主に必要なことは下記となります。
- 動作クロックの設定
- クロックを供給するブロックの設定
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その3:LEDの動作(GPIO)を調べる)
サンプルアプリ(Blinky)のLEDの動作を調べてみる
これで、ひと通りデバッグ等ができるようになりました。実際のコードを解析しつつ、ARM Cortex-M0というかLPC800シリーズのアーキテクチャを見て行きたいと思います。まずは前半を飛ばして、わかりやすいLEDの制御部から見ていきます。以下の方法は、僕がこういったマイコンの動作とアーキテクチャを理解する上で確認していく過程をほぼそのまま書いている感じです。
LEDはGPIOで制御
LEDはLPC800-MAXのボード上に配置してあり、LPC812と接続してあります。接続を確認するためにLPC800-MAXの回路図を確認します。
p2にある下記の部分がLEDの回路になります。この回路図から
- PIO0_16 : BLUE
- PIO0_17 : GREEN
- PIO0_7 : RED
ということがわかります。
Blinky(main.c)のソースコードを見ると
/* Set port p0.7 to output */ GPIOSetDir( 0, 7, 1 ); /* Set port p0.16 to output */ GPIOSetDir( 0, 16, 1 ); /* Set port p0.17 to output */ GPIOSetDir( 0, 17, 1 );
となっていますので、正しいことがわかります。この関数を見てみると、きちんとAND, ORでレジスタ制御されています。dirはoutput=1と設定されています。
(lpc8xx_gpio.c) void GPIOSetDir( uint32_t portNum, uint32_t bitPosi, uint32_t dir ) { if( dir ) { LPC_GPIO_PORT->DIR0 |= (1<<bitPosi); } else { LPC_GPIO_PORT->DIR0 &= ~(1<<bitPosi); } return; }
GPIOレジスタの確認
さて、この関数の「LPC_GPIO_PORT」が指している場所を探してみると、、、
(LPC8xx.h) #define LPC_GPIO_PORT_BASE (0xA0000000) : #define LPC_GPIO_PORT ((LPC_GPIO_PORT_TypeDef *) LPC_GPIO_PORT_BASE ) :
「LPC_GPIO_PORT」は「LPC_GPIO_PORT_BASE」へのポインタになっていて、LPC_GPIO_PORT_BASE = 0xA0000000となっています。これを確認してみます。LPC800シリーズのページのLPC81xユーザーズマニュアルを調べます。p10にメモリマップが載っています。これによると0xA0000000〜0xA0004000までがGPIOに割り当てられています。
LPC_GPIO_PORT_TypeDefをコード上で見ると下記のように定義されています。
(LPC8xx.h) typedef struct { __IO uint8_t B0[18]; /*!< (@ 0xA0000000) Byte pin registers port 0 */ __I uint16_t RESERVED0[2039]; __IO uint32_t W0[18]; /*!< (@ 0xA0001000) Word pin registers port 0 */ uint32_t RESERVED1[1006]; __IO uint32_t DIR0; /* 0x2000 */ uint32_t RESERVED2[31]; __IO uint32_t MASK0; /* 0x2080 */ uint32_t RESERVED3[31]; __IO uint32_t PIN0; /* 0x2100 */ uint32_t RESERVED4[31]; __IO uint32_t MPIN0; /* 0x2180 */ uint32_t RESERVED5[31]; __IO uint32_t SET0; /* 0x2200 */ uint32_t RESERVED6[31]; __O uint32_t CLR0; /* 0x2280 */ uint32_t RESERVED7[31]; __O uint32_t NOT0; /* 0x2300 */ } LPC_GPIO_PORT_TypeDef;
GPIOのポートの定義はユーザーズマニュアルのp88から
これに対応していることになります。この表からDIR0のReset Valueは0、つまり起動時の初期値はINPUTであることがわかります。BlinkyではDIR0の対応するbitに1(=OUTPUT)をORで書き込んでいることになります。
またGPIOへの書込みはSET0, CLR0, NOT0を利用することがわかります。SET0のReset Valueは0なので、BlinkyでGPIOSetDir関数をセットした直後の状態は
- OUTPUT
- 初期値: 0
となるので、該当するGPIOのLEDは「点灯」することになります。これを実機上で確認するにはGPIOSetDir関数までステップ実行させてみると確認できます。下記はPIO0_7(RED)のDIRをセットした直後の状態です。
点灯する理由は回路図を確認することでわかります。回路図ではLEDはアノードコモンを使用しており、3.3vにプルアップされています。したがってOUTPUTで0が書き込まれると、電流が流れ込みLEDが点灯することになります。消灯する場合は1を書き込むことで3.3vで電位が同じになり、電流が流れないので消灯することになります。
GPIOへの書込み
設定が理解できた所で書込みですが、これは上記で書いたとおりになっています。main.cのコードを見るとここで行っています。
while (1) /* Loop forever */ { /* I/O configuration and LED setting pending. */ if ( (mrt_counter > 0) && (mrt_counter <= 200) ) { GPIOSetBitValue( 0, 7, 0 ); } if ( (mrt_counter > 200) && (mrt_counter <= 400) ) { GPIOSetBitValue( 0, 7, 1 ); }
単純にGPIOSetBitValue関数で、点灯時は0, 消灯時は1をセットしています。セットする関数はGPIOSetDirと同じようになっています。ここではSET/CLRを使用していますね。
(lpc8xx_gpio.c) void GPIOSetBitValue( uint32_t portNum, uint32_t bitPosi, uint32_t bitVal ) { if ( bitVal ) { LPC_GPIO_PORT->SET0 = 1<<bitPosi; } else { LPC_GPIO_PORT->CLR0 = 1<<bitPosi; } return; }
GPIOの初期設定
飛ばしてしまっていたのですが、GPIOの初期設定も見ておきます。
/* Enable AHB clock to the GPIO domain. */ LPC_SYSCON->SYSAHBCLKCTRL |= (1<<6);
先ほどのGPIOで探したのと同じ要領で「LPC_SYSCON」と「SYSAHBCLKCTRL」を探します。これは「System configuration」の「System clock control」レジスタです。(ユーザーズマニュアルp26, p35)そして6bit目に1を書き込んでいます。
この表からGPIOへのクロック供給をEnableにしてGPIOブロックを有効にしていることがわかります。
さすがにArduinoとはひと味もふた味も違う難解さですね(^^; GPIO一つ動かすだけでもこれだけの調査と理解が必要になります。次回はMRT(Multi rate timer)とかクロック周りを見ていこうかと思います。
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その2:デバッグでprintf文を使う)
普通にオンラインデバッグができますが、一点だけprintf文を使おうとしてハマりました。
デバッグでprintf文を使う
前回のBlinkyプロジェクトにprintf文を書いてビルドすると以下のようにリンカでエラーになってしまいます。
調べたところ解決策がこちらの「趣味エンジニアリング」に書いてありました。
プロジェクトウィンドウから「Blinky」のプロジェクトを右クリック→「Properties」→「C/C++ Build」→「Settings」で右のビューの「MCU Linker」→「Target」を選択します。
「Use C Library」が「Redlib(none)」となっていますので、これを「Redlib(semihost)」に変更します(下図参照)
これでビルドすると・・・
無事ビルドが通るようになりました。ただしこの設定はプロジェクトごとに必要みたいなので注意が必要です。
実際に実行すると「Console」ウィンドウにprintfの内容が表示されるようになります。
BlinkyのGPIOレジスタの設定についても書こうと思いますが、別途エントリを分けます。
LPCXpressoとLPC800-MAXでマイコンを学ぶ(その1:サンプルアプリを動かす)
ARMマイコンの勉強を始めました。とりあえず、LPC800-MAXというArduino互換(ぽい)のが出たようなので、スイッチサイエンスさんで購入。このボードはmbedにもなるボードなのですがそっちは置いておいて、ARMマイコンを理解するためにもLPCXpressoで動作するとこまで確認しました。
LPC800-MAXについてはこちら
LPCXpressoの導入
なにはともあれ、開発環境をインストールします。LPCXpressoの情報は「LPCマイコン情報」の公式にあります。ここを参考にしながら進めるといいでしょう。
NXPのユーザ登録とLPCXpressoダウンロード
ツールのダウンロードにはユーザ登録が必要になります。ここからユーザ登録を行い、ダウンロードページからLPCXpresso 6をダウンロードしてインストールします。
LPCXpressoのアクティベート
インストールが完了して起動すると、eclipseベースのIDEが起動します。最初の起動時にはメッセージが表示されるのでアクティベートを行う必要があります。なおアクティベートはアカウント単位ではなく、インストールベース単位なので、複数台使う場合もそれぞれでアクティベートが必要です。
アクティベートはメッセージにあるように「Help」→「Activate LPCXpresso (Free Edition)」→「Create serial number and register...」でシリアルナンバーを取得します。
シリアルナンバーをコピーしておき、OKを押すとIDE内もしくは外部ブラウザでサイトが開くので、登録したユーザでログインして、ペーストすることでアクティベートキーを取得できます。アクティベートキーを取得できたら、LCPXpressoのIDEでHelp」→「Activate LPCXpresso (Free Edition)」→「Enter Activation code...」に入力して完了です。アクティベートページがわからなくなってしまった場合はこちら
LPC800-MAXのサンプルプログラムを動かす
それでは、LPC800-MAXをUSB経由で接続して、サンプルプログラムを動作させてみましょう。このボードはmbedにもなるので、接続すると「MBED」というストレージがマウントされますが、今回は気にしません。
LPC800関連のライブラリのインポート
まずは関連するライブラリをワークスペースにインポートしておきます。左下のメニューから「import project(s)」を選択します。
「Archive」で「Browse...」を選択し、「Exmaple」→「NXP」→「LPC800」で「LPC8xx_Libraries.zip」を選択してインポートします。すると下記のように3つのプロジェクトがインポートされます。これらはライブラリとして使うことになります。追記※CMSIS_DSPLIB_CM0は必ずしも必要ではないようです
サンプルアプリのインポート
次にサンプルアプリをインポートします。同じように「import project(s)」から「NXP_LPC8xx_SampleCodeBundle.zip」を選択してインポートします。この時に「Blinky」のみを選択してインポートします。ワークスペースは以下のようになります。
なにはともあれ動かす
とりあえず動かしてみましょう。左下のメニューから「Debug 'Blinky'」を選択するとビルドが行われ、ビルドが成功するとLPC800-MAXにビルドバイナリをダウンロード書込みにいきます。初回起動時には書き込み先の選択画面が出るので、選択してやるとボードへの書込みが行われます。
無事書込みが完了するとデバッガが起動して、main()の入り口付近で止まります。
この状態でコードデバッグできるのですが、とりあえず動かしてみたいので「Resume(F8)」でプログラムを走らせてしまいましょう。
これで実機のLPC800-MAXではフルカラーのLEDが「R」 → 「B」 → 「G」と点滅を繰り返すサンプルプログラムが動作しているはずです。